2017年2月27日月曜日

日本文化のユニークさ8項目


これまでに見てきた日本の長所11項目は、日本を訪れたり、住んだりしている多くの外国人の感想などをもとにして、その最大公約数的なものを整理したものである。つまり現代の日本の社会や文化について、世界の人々がどんな風に思っているかをまとめたものである。

1)礼儀正しさ
2)規律性、社会の秩序がよく保たれている 
3)治安のよさ、犯罪率の低さ 
4)勤勉さ、仕事への責任感、自分の仕事に誇りをもっていること
5)謙虚さ、親切、他人への思いやり
6)あらゆるサービスの質の高さ
7)清潔さ(ゴミが落ちていない)
8)環境保全意識の高さ
9)食べ物のおいしさ、豊かさ、ヘルシーなこと 
10)伝統と現代の共存、外来文化への柔軟性
11)マンガ・アニメなどポップカルチャーの魅力とその発信力

では、このような日本社会の長所は、どこから生まれてくるのだろうか。次に示すような日本社会や文化の、歴史的、地理的な背景から出てくる独自性があって、それが現代の日本社会の様々な特徴を生み出しているのではないか。以下の章では、これら「日本文化のユニークさ8項目」にそって論じていくことになる。

(1)狩猟・採集・漁撈を基本とした縄文文化の記憶が、現代に至るまで消滅せず日本人の心や文化の基層として生き続けている。

(2)文化を父性的な性格の強い文化と母性的な性格の強い文化とに分けるなら、日本は縄文時代から現代にいたるまでほぼ母性原理が優位にたつ社会と文化を存続させてきた。

(3)ユーラシア大陸の穀物・牧畜文化にたいして、日本は穀物・魚貝型とも言うべき文化を形成し、それが大陸とは違う生命観を生み出した。

(4)大陸から海で適度に隔てられた日本は、異民族により侵略、征服されたなどの体験をもたず、そのため縄文・弥生時代以来、一貫した言語や文化の継続があった。

(5)大陸から適度な距離で隔てられた島国であり、外国に侵略された経験のない日本は、大陸の進んだ文明の負の面に直面せず、その良い面だけをひたすら崇拝し、吸収・消化することで、独自の文明を発達させることができた。

(6)森林の多い豊かな自然の恩恵を受けながら、一方、地震・津波・台風などの自然災害は何度も繰り返され、それが日本人独特の自然観・人間観を作った。

(7)宗教などのイデオロギーによる社会と文化の一元的な支配がほとんどなく、また文化を統合する絶対的な理念への執着がうすかった。

(8)西欧の近代文明を大幅に受け入れて、非西欧社会で例外的に早く近代国家として発展しながら、西欧文明の根底にあるキリスト教は、ほとんど流入しなかった。


 

11項目の長所を具体的に見る(5)

 現代の日本社会や文化の長所と思われるものを、これまでそれぞれかんたんに触れた。

1)礼儀正しさ
2)規律性、社会の秩序がよく保たれている 
3)治安のよさ、犯罪率の低さ 
4)勤勉さ、仕事への責任感、自分の仕事に誇りをもっていること
5)謙虚さ、親切、他人への思いやり
6)あらゆるサービスの質の高さ
7)清潔さ(ゴミが落ちていない)
8)環境保全意識の高さ
9)食べ物のおいしさ、豊かさ、ヘルシーなこと 
10)伝統と現代の共存、外来文化への柔軟性
11)マンガ・アニメなどポップカルチャーの魅力とその発信力

ただ10)については触れていなかったので今回取り上げたい。11)についてはかんたんな補足である。

まずは、10)伝統と現代の共存、外来文化への柔軟性

後半「外来文化への柔軟性」については、これまで多くの日本人論や日本文化論で指摘されきた。たとえば新しいところでは、『なんとなく、日本人―世界に通用する強さの秘密 (PHP新書)』でも触れられている。日本人の根源的な強さは、絶え間なくいろいろな文化を外部から取り入れ、日本的なものに変えて、自家薬籠中の物にしてきたことにあるというのだ。有史以来の絶えざる日本化、自由に取り入れて日本風に変えていくという持続性と変容性の両立こそ、日本人と日本文化の特徴なのだという。

外来文化を自由に受け入れながら、日本古来の伝統や感性を失わず、日本人特有の感性に合わせて日本化してしまう。伝統と現代が共存しうるのも、そういう背景と関係しているかもしれない。

ここからは、11)マンガ・アニメなどポップカルチャーの魅力とその発信力

にも関係する。おそらくマンガやアニメが世界的に流行する背景にも、上の本の著者がいう日本人の強みが直接・間接に働いていることは間違いないだろう。その点を直接に論じている本もある。『ジャパナメリカ 日本発ポップカルチャー革命』は、次のように指摘する。

「1970年代や1980年代、日本が世界的に認められるようになる中で、活躍中の前衛的なアーティストたちはアメリカ、ヨーロッパ、そしてアジアの諸文化から気に入ったものだけを習得し、独創的な作品を作り出した。ただし、彼らアーティストの作品は、ものの見方、視覚的アイコン、物語上の前提、そして空想で構成された文化的基盤の核心部分を共有する、自国の列島に住む観衆だけに向けられていた。徳川時代と同じように、日本は熱心に他国の文化を研究しながら、国内の観衆だけを相手に、クリエイティブな表現を磨いていたのだ。」

外国から習得したものを伝統と融合させながら、文化を共有する日本人だけにむけて表現を熟成していった結果、アメリカの若者にとって新鮮に感じられるポップカルチャーが出現したというわけだ。それが今や硬直ぎみのアメリカのポップカルチャーの代替物になろうとしているというのだ。

ではなぜ、日本では、文化の混ぜ合わせのような状態からクールなポップカルチャーが生まれてくるのだろうか。日本でとくにそのようなことが起る理由については、この本では触れていない。

日本には、異質な文化のパーツを自分の社会に平気で取り入れられる「混合文化社会」であり、原則にこだわらない融通無碍を特色とするという文化的な背景があり、それが強みになっているかもしれない。今、地球上の多くの国々は、キリスト教やイスラム教という一神教を文化の根っこにもっている。あるいは、ヒンドゥー教のような多神教でも、はっきりしたタブーがあったりする。そうするとどうしてもその教えの原則に合わない文化はたとえ無意識にでも排除してしまう傾向がある。日本の文化にはそれがないから、自分が気に入ったものを自由に取り入れて、そこから独創的なものを生み出す可能性がそなわっているのかもしれない。

また、日本に一神教がほとんど広まらなかったことと関係するが、そのためか現代の日本人の心の深層に、古代的なアニミズム的な心性がっかなり残っている。動物はもちろん、山や森や川にさえ魂を感じる世界観が、私たちの心の中に残っている。宮崎アニメは、かなり自覚的にそういう世界観を表現するが、日本人が作り出す、他のアニメやマンガにも多かれ少なかれ、そのような世界観が反映されていないだろうか。そして、それが日本のポップカルチャーが、世界中でクールと受けとめられるひとつの理由になっていないだろうか。

一神教的な文化にしばられない自由さ、一神教的なものに押し殺されない、古代的な生命観の魅力、これまで世界の主流であった文化にない何か新しいもの(同時に古いもの)、それがが混ざり合ったクールな魅力を発しているのではないだろうか。