日本人とユダヤ人を比較した本としては、イザヤ・ベンダサン(山本七平)の『日本人とユダヤ人
日本人とユダヤ人の違いがもっとも際立つのは、なによりもその歴史だろう。日本人は、歴史上、異民族による侵略、征服、強奪、虐殺などの経験をほとんどしていない。 それは「日本文化のユニークさ」8項目でいえば、(4)項目目にあたる。
(4)「大陸から海で適度に隔てられた日本は、異民族により侵略、征服されたなどの体験をもたず、そのため縄文・弥生時代以来、一貫した言語や文化の継続があった。」
これに対してユダヤ人の歴史は、言うまでもなく征服され、迫害され、虐殺され等々を繰り返した歴史だった。もちろん大陸の歴史は、ヨーロッパ、アジアを問わず、一般に侵略と征服の繰り返しであったが、日本は、渡航に困難を伴う海峡によって隔てられた島国だったため、大陸に共通する侵略の歴史から免れた。一方ユダヤ民族は、厳しい大陸の歴史の中でも、もっとも過酷に征服、集団捕囚、迫害、虐殺などを味わい尽くした。
日本人は、日本列島という地理的な条件によってごく自然に、共通の言語や文化をもつ日本人という自覚と日本という国のまとまりと存在を感じることができる。これに対してユダヤ民族は、民族の成立の当初から、民族がおい育った大地、国土というものを持っていなかった。しかもユダヤ人は、ユダヤ戦争(紀元66~73)などによって国土を失い、世界に離散していく(ディアスポラ)。
一般に国土を失い、離散した民族は、年月が経つにつれその移動先の宗教に改宗したり、文化に融合したりして、民族としてのアイデンティティを失っていくが、ユダヤ民族はユダヤ教を失わず、民族としての独自性を失わなかった。
まとめれば、ユダヤ民族は、異民族相互の争いが激しい大陸の歴史のなかでもずば抜けて過酷な歴史をもつ。日本人はそのような異民族間の争いをほとんど知らない。さらにユダヤ人は、自分たちの安住の地としての国土を二千年の長きにわたって失うという歴史をもつ。日本人は、日本列島という自然の境界線によって守られた国土に、だれに追われることもなく安住し続けることができた。
ユダヤ人は、民族のアイデンティティを保つためにユダヤ教という強力な観念を必要とした。日本人は、大陸から海で隔てられた列島に何らかの文化的まとまりをもって住んでいるという事実によって、ほとんど無自覚に(無観念に)日本人としてのアイデンティティを保つことができる。
一方日本人は、移住したりして二世、三世の代になると日本文化や日本人への同一化を失う度合が他の民族(たとえば中国人や韓国人)に比べるとはるかに早いという。日本人としてのアイデンティティが、地理的な条件に基礎を置くもので、観念によって人為的に保つものでないから、日本という国土を離れると失われるのも早いということだろう。この点でも、二千年の長きにわたって異郷の地で自民族のアイデンティティを失わないユダヤ民族とは好対照である。
ともあれユダヤ人は、そのもっとも過酷な迫害の歴史の中で、いや迫害の歴史があったからこそ、一神教を生み出していく。そしてユダヤ教という一神教からキリスト教が生まれ、その後の人類の歴史を大きく規定していく。
一方日本人は、その一神教から地理的にも文化的にももっとも遠いところで独自の文化を育んでいった。それゆえ一神教がもっともなじまない民族とも言えるのだが、にもかかわらず非キリスト教文明圏でもっとも早く近代化を成し遂げた。そこに世界史上でのユニークな、しかし重大な日本の位置がある。
《関連図書》
★『ユダヤ人 (講談社現代新書)
★『驚くほど似ている日本人とユダヤ人 (中経の文庫 え 1-1)
★『ふしぎなキリスト教 (講談社現代新書)
★『一神教の誕生-ユダヤ教からキリスト教へ (講談社現代新書)
★『旧約聖書の誕生 (ちくま学芸文庫)
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